長期修繕計画 ②

大規模修繕工事費用が、長期修繕計画上の金額から大幅にアップ

そのとき、あなたは管理組合の理事長であったなら、どうされますか?

大規模修繕工事を行うために、工事会社から見積を取得しました。その見積金額を見てびっくり!

分譲時の売主から示された長期修繕計画上の工事費用からは大きくかけ離れ、大幅に金額がアップすることがわかったのです。

長期修繕計画や修繕積立金という概念そのものがない時期には、管理費の10%程度を修繕積立金として積み立てるという方法が、一般的な考え方として販売されていた時代はありました。そんな時代のマンションのことではありません。

分譲業者は、2008年(平成20年)6月に国交省が策定した「長期修繕計画ガイドライン」を参考に、長期修繕計画を作成し、これに基づいて修繕積立金の額を設定していました。

【※「長期修繕計画ガイドライン」の改訂は2021年(令和3年)9月です。】

新築マンションの場合、事業主は長期修繕計画を作成し、購入予定者に説明する必要があります。

マンションが区分所有者に引き渡された後は、管理組合がこの計画を引き継ぎ、総会で決議します。

修繕計画は一定期間ごとに見直すことが前提で作成されています。

したがって、計画に定められた概算費用は確定したものではなく、実際の修繕費用が計画の工事費用より上回っても、売主に損害賠償請求できるものではありません。

では、事業主が作成した長期修繕計画が、国交省「長期修繕計画ガイドライン」を参考とせずに、実際の工事費用と大幅に乖離していることが判明した場合に、売主に契約不適合責任を問える余地はあるのでしょうか?

▷2015年の購入時に交付された「長期修繕計画書」に以下の問題があるとします:

形式的・実質的な欠陥

  • 国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(※任意指針)に沿っておらず、
  • 工事項目の記載や費用水準が明らかに不自然、
  • 実際の修繕費用と乖離が大きく、購入後に修繕積立金の大幅な増額が生じた。

これが「瑕疵」として認定されるかどうかがポイントです。

【「瑕疵担保責任」または「契約不適合責任」の適用可否】

2015年当時の民法では「瑕疵担保責任(旧民法570条等)」、2020年以降は「契約不適合責任(現民法562条以下)」が該当します。

【長期修繕計画の誤りは「瑕疵」にあたるか?】

  • 原則として、売買契約の対象は「建物そのもの」であり、長期修繕計画は法的には付属資料にすぎないとされる傾向があります。
  • よって、「建物本体」や「共用部の性能・品質」に瑕疵がなければ、単に計画が粗雑であることは通常の瑕疵には該当しないとされる可能性が高いです。

【例外的に問える可能性がある場合】

以下のような事情があれば、売主に信義則違反(民法1条2項)や不法行為責任(民法709条)を追及できる余地があります。

  • 売主が 長期修繕計画を合理的・専門的に作成したと買主に誤信させた場合(説明義務違反)
  • 計画内容に明らかな虚偽や誤導が含まれていた場合
  • 重要事項説明書やパンフレット等で、「この修繕計画により修繕積立金は足りる」と明言されていた場合

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